私の故郷は、豪雪地帯の秋田県横手市。
雪というと、スキーや雪遊びなどの楽しいイメージがあると思うが、生活する上では大変な存在だ。一晩で20-30cm以上の雪が降ることもあり、朝は除雪をしないと家を出られない。
そして、そんな積雪の日々を重ね、その先に待っているのが「雪下ろし」という大仕事だ。
雪下ろしは、キツくて危険
実際にやってみると分かるが、雪下ろしはかなりの重労働だ。
相手は、1m近く積もった雪。それをショベルを使ってせっせと屋根の下に投げるにしても、手押し式のスノーダンプを使って下ろすにしても、かなり体力を使うし、腰も痛くなる。
それを家族総出で、1シーズンに2〜3回以上も行う必要がある。積雪が多ければ、1人でやっていたら1日かかっても終わらない。
少子高齢化でより危険に
少子化や若者の流出に伴い、中年・高齢者しか住んでいない家も年々増えている。
毎年、1人で雪下ろしをしている途中で、屋根から落ちて命を落とす事故のニュースがテレビで流れている。命を落とさないまでも、寝たきりになってしまう人もいる。
そのため、秋田では「雪下ろし注意情報」などを出して、雪下ろしの際に命綱・ヘルメットを着用することや2人以上で作業することを呼びかけている。
雪下ろしがお金になる
このような課題に対して、秋田県には「雪下ろし代行」というビジネスがある。
料金は、地域・業者よってかなり異なるが、作業員1人1日あたり1万円〜2万円(または1人1時間あたり3千円〜5千円)という料金設定になっている。
家の大きさにもよるが、3人がかりで行なった場合1回3万円。そうすると、1シーズンで10万円近くかかる可能性もある。大きい家の場合は、更に価格が高くなる。
これは、かなりの出費。
高齢者等は、行政が雪よせ・雪下ろしを支援することで、通常の半額〜1/3以下での雪下ろし依頼が可能になっている。
空き家問題と雪下ろし
少子高齢化に加えて、雪下ろしと関係性の高い社会課題が、空き家問題である。
実家を空き家状態のままにして首都圏などで生活をしている場合、家の中から熱が発生しない分、どんどん屋根に雪が積もっていき、放っておくと家が潰れてしまう。
そのため、わざわざ実家に帰れない人向けにも、雪下ろし代行サービスは重宝される。
雪下ろし代行のふるさと納税が話題に
先日、このようなニーズに着目した秋田県湯沢市が、ふるさと納税の返礼品として「雪下ろし代行」を提供していることが話題になっていた。
湯沢市に寄附をすると、同市内にある空き家や高齢者の家族だけが住んでいる家で雪下ろしを行ってくれるサービスを受けられ、作業終了後に報告書と現場写真が郵送される仕組みだ。
全国的にも非常に珍しい、ふるさと納税の返礼品で、10万円以上の寄附で2人を派遣・15万円以上の寄附で3人を派遣できる。
□外部サイト:ANAのふるさと納税(秋田県湯沢市)
雪国のシェアリングエコノミー
最近は、このような「雪下ろし代行」を個人で依頼するケースも増えている。
以前は、公的な施設や会社の雪下ろしでこのようなサービスを目にすることが多かった。その役割を担っていたのが、鳶職人さん・大工さんたちである。
雪国では、冬に家を建てられない。その仕事が無い空いている期間は、別の仕事をする必要がある。鳶職人さん・大工さんにとって、屋根の上は自らのスキルを活かせる場だ。
そのスキルを「雪下ろし代行」という形で提供し、対価を得ていた。まさに、シェアリングエコノミーである。
田舎の文化と地域の経済
シェアリングエコノミーは、田舎の人たちにとって、昔からあった文化の1つだ。
屋根の上で自由に動ける人が、雪を下ろす。そこで生まれる、笑顔とありがとうの言葉。良かったら持って帰ってと、お願いした人が作った野菜をお金とは別に手渡す。
そんなお互いのスキルをシェアし、それぞれが幸せである社会。そんな地域が、まだ日本の地方には残っている。