「さいき・あまべ食べる通信」の創刊に踏み切った背景には、宮崎で受けた刺激があると、平川さんは話します。
今から2年前、東北食べる通信の編集長である高橋博之さんが宮崎市内で車座座談会(みんなが話になって座ること)を開催するというので駆けつけました。
当時、自分は家業を継いだばかりで手一杯でしたが、宮崎で出会った参加者はどんどん動いている人ばかり。純粋に「宮崎すげえ!」って思いましたよ
もっと地域と関わりたいという思いがカタチに
40代も後半に差し掛かる中で、地域ともっと関わりたいともぞもぞしていたという平川さんは、宮崎での出会いをきっかけに「食べる通信」創刊を決意。
表面張力状態にまで膨れ上がった平川さんのチャレンジ精神は、2016年に起きた熊本地震で「したくてもできなくなることが簡単に起こりうる。すぐやろう!」(平川さん)と準備を始められたそうです。
車座に集っていたローカルプレイヤーたちも動き出す
ちなみにこの車座には、のちに「高千穂郷食べる通信」を立ち上げる板倉哲男さん(高千穂町)や、「水俣食べる通信」の諸橋賢一さん(水俣市)など、九州のローカルビジネスを担うプレイヤーたちが集結していました。
車座は、さまざまな人の転機となっています。
加工業者としての矜持
「自然のまま」「無添加」といったキーワードについて、多くの消費者は食の安心・安全に担保するもののように捉えているかもしれません。
しかし、加工業者の目線では異なります。
加工業者の努力が安心・安全の食につながる
例えば天日干し。太陽の光に当てると旨味が増すとはいわれますが、天日に晒すことは衛生面でのリスクがついてきます。
加工業者はその点に留意し、消費者に安心していただける商品を作るため、大きなお金を投資して乾燥機を導入したり、安心・安全に関する国際基準の認証を取得するなど努力を続けています。
丹精こめて…というような思いの部分だけじゃなくて、いろんなルールに基づいてしっかりやっているんですよね。
でも、そのほとんどは表に出ない。乾燥機械の説明をウェブサイトに掲載していても、画像が何点かあるだけで、その価値はなかなか伝わりません。
だから、食べる通信で加工業者がなぜそうしたのか、その背景には何があるのかを読み物として届けることは有益だなと思ったんです
佐伯の海の幸を全国へ
いま、海水の温度の上昇によって魚の活動は活発になり、カジメやワカメといった藻場(海藻が生い茂っている場所)を形成している海藻がみるみる減っているといいます。
佐伯の近海では十数年前からは海藻が死滅する「磯焼け」の被害も広がり、加工業者である平川さんも気が気ではありません。
うちの工場もある長崎では、カジメがダメになりました。天然の海藻は本当に少なくなった。おかげで仕入値は上がり、海藻がどんどん高価なものになっていきます。
近い将来、ワカメやヒジキといった身近な海藻も、まさかこんな値段に!?という状況が起こる可能性だってあります
ただし、だからといって発信者目線に偏ってはダメだという平川さん。
あくまでも読者が読んで面白いもの、役立つものとして食べる通信を発行していきたいといいます。
読み物のとして徹底的に魅力的なものを目指す理由
思いで買うものは続かないもんだよ、と先輩から言われたことがありました。まさにその通りですよね。
思いだけではものは売れない。売れなければ、伝えたいことは結局伝わらない。
だから、さいき・あまべ食べる通信は生産や加工の現場を捉えつつも、まずは読み物として徹底的に魅力的なものを目指しています。
同じチームのコピーライターが本当にいい仕事をしてくれるんですよ。ぼくだけだったらドロドロした記事になるところでした(笑)。ありがたいことです
佐伯のすごいもの、すごい人をこれからもどんどん紹介していきたいという平川さん。
アラフィフ世代の地域ビジネスプレイヤーとして、同世代の励みにもなればと走り続けます。