前回に引き続き、今回の対談の相手は、食の専門家、TVや講演でも大活躍する農民連食品分析センターの八田純人先生です。日本の農業に関する問題点とその解決策について、ユニークな視点から提言をいただきました。
行動すること、あるもの探しをするのが農業の復興に大切
―日本の農業の現状を端的に言うとどうでしょうか。最近の農業ブームでなんとなく右上がりになっているような印象があるのですが。
八田:間違いなく右下がりですね。ビジネスという観点では右上がりの傾向はあるのですが、産業的な収支で合わせれば間違いなく右下がりの傾向にあります。今は全体的な景気が下がっているなかで、農業に対する期待感がビジネスとして大きくなってきてはいると思います。例えば休耕田を買い漁って大きなビジネスとしてもうかるような仕組みを作るとか、産直、直売、有機とか、そこを大きくまとめてビジネスに持って行こうとする動きやイメージは確かにとしてあると思うし、確かにそうして先行してやっている人たちがいることも事実ですが、全体で足し算引き算してみるとやはり右下がりで、産業自体を底上げするには至っていません。
―根本的な問題はどこにあるのでしょうか。
八田:いろんな問題が絡んでいますからね。意欲をもって生産をしない方がお金をもらえる仕組みを作りあげてしまった政府の問題もあると思います。また、今農業をやっている人のおおよそのひとたちが65~70歳以上の人で、新たの意欲をもってビジネスを始めようという体力がある人も少ない、ということもあります。
―政策や高齢化と言った理由もあるかと思いますが、そういう状況のなかでも結果をだしている人もいらっしゃいますよね。その人たちは何故結果が出せるのでしょうか?そういうところでいうと、徳島県上勝町の事例(https://machi-log.net/special/agri/post-2.html)などはとてもいい例だと思います。どんなに頑固であっても、あのような事例があるとやらない理由は無いのではないでしょうか。
八田:例えば親が農家をやっていて、その子供が大学等で勉強して帰って来て、「~をやりたい」というと、やはり親の立場からは安定経営の視点でしか物を言えない状況があります。今までと同じようにやっていけばいいということになるんですよ。そういうので衝突する後継者が多いということが多いですね。
―私は、人が元気にならなければ意味が無い、と思っています。人が元気になることだけに焦点を当てる、とにかく一人一人がスターになる、そのためにはどうすればいいのかを考えた末に、上勝町の仕組みを横石さんが作り、そのなかでみんなが動いたことによって、みんながスターとなり輝いているのです。横石さんにお話を聞きましたが、「地域活性をしようと思ったことは一度もない。福祉で日本一にしようと思ったことも一度もない。とにかく目の前のばあちゃんをどれだけ元気にしようかを考えているだけです。」とおっしゃってました。
八田:行動で成功している人たちと、拡大せず「あるもの探し」をしているひとたち。そういう考え方のひとたちは結構うまく行っています。
お年寄りをお年寄りとして扱わない
―地域活性化には「あるもの探し」や「ばかもの、よそもの、わかもの」が必要と言われてますが、他に何か必要と思われるものはありますか。
八田:「お年寄りをお年寄りとして扱わない」、というのがありますね。年寄りは隠居するものだ、というイメージがありますが、現役バリバリでやっているお年寄りがたくさんいらっしゃるところは地域全体元気です。一人一人が役割をもっているところは、ちょっとやそっと何かがおきても折れないのです。逆に、何かの歯車としてやっている人たちというのは何かあると弱いのです。
―「あなたはこういう役割を担っている人です。」という、場があってコミュ二ティがあって、集まって、リーダーがいて、話すきっかけがあればいい、というわけですよね。
八田:情報のやりとりがなくなっているというところは過疎化もするし、コミュ二ティが小さくなっているような気がします。
地域で作ったものを地域で消費する仕組みづくりを
―ここまで日本の農業が衰退した理由は何だと思われますか?
八田:一つは輸入食品の拡大です。これは我々というよりも、政府自身がブレーキをかけてもらわなければいけない問題ですね。しかし一番大きな問題は、農村に若い人がいなくなったことです。
―どうして若者が農村から流出したのでしょうか。
八田:採算が合わないことですね。政府の責任、親方日の丸で甘えていた部分、中央集権的に甘えていた部分があります。物の流通が地域の消費じゃなくなったということもあります。
―最近が野菜の物流にインターネットが使われるようになりましたが、そうした物流の問題解消には役立っていないのですか?
八田:効果は徐々に出ていますが、まだ限定的ですね。インターネットで売れる野菜の量はデータとしてはまだ少ないのが現状です。地域で作ったものを地域で消費する仕組みは、ブレがなく安定した供給ができるはずです。サステナブルで、地域のものが活きる仕組みですから。
―その観点でいくと、ヨーロッパビジネスモデルは参考になるかもしれません。自分たちで文化を生み出し、守り、それを観に来る人たちがたくさんいて、そういう人たちから収入を得る、そのお金で程よく文化を守る、というかたち。そのようなサイクルを徳島県上勝町や長野県小布施は創りだしていますね。人口の10倍も観光客が来るようになれば、当然街は潤いますからね。
-本日のお話しで、今後の日本の農業について明るい兆しのみたいなものを感じることができました。どうもありがとうございました。
八田:こちらこそどうもありがとうございました。
編集後記
食の分析のエキスパートでありながら、自らも足しげく農村にも通いながら、農家の方々との交流を重ねられている八田先生ならでは視点で農村活性に関するご意見をうかがうことができました。
地域で回るような経済を構築すること、それがまず農村の活性化への第一歩。その渦がどんどん拡大すれば日本全体の農業も盛り返していく。そのためには、そこにある人、ものを活かすことをまず考えることが重要だし、どこにでもチャンスはあるということでもあります。そんな未来への希望を感じる対談となりました。