近年の海外からの安価な洋食器の輸入が増えたことによって、燕三条地区の地場産業である金属研磨製品の出荷額がどんどんと減少する傾向がありました。この状況から、燕三条地区の優れた研磨技術を絶やしてはならない、お客さまにモノだけではなく感動を伝え続けていきたい、という想いから始まった「磨き屋シンジケート」プロジェクト。今では世界各国から受注を受けるまでになったこのプロジェクトはどのように展開されていったのでしょうか。
産業の強みを知る
従来、地元商社を頭にして、製造メーカー、下請け、その下に研磨がある、といった受注の流れが構築されていました。しかし、大量生産商品等の大口のものは海外への輸入に頼るようになり、この関係は崩壊して、研磨加工の職人さんたちに仕事が行きつかないような状況になりつつあったのです。それは産業の衰退、技術継承がされない、人口の流出等に波及する町の危機でもあったわけです。そこで、この危機を燕商工会議所では「研磨加工業の強み」はどういうところにあるのか、そして、どういうお客様がいて、どうすれば売れるのか、を検討していったのです。
燕三条地区の優れた研磨加工技術の強みとして、
・職人技はナノテクノロジー
・小ロット多品種に対応が利く
・設備投資が少なくて済む
・金属表面処理には重要がある
・県央(燕三条)地域に集積している
・大企業はバフ研磨をはじめとする非常に細やかで技術を必要とする研磨作業のノウハウを持っていない。
・技術が海外へ流出しにくい
というものが挙げられました。
海外輸入が多いということの裏返しで、国内での研磨作業が必要な製品もある、ということで、それにはどういうものがあるかも検討したのです。
・ライフサイクルの短いもの
・国内で開発、試作するもの
・納期が短く、中国へ持って行くリスクの高いもの
・機械だけ加工できないもの
・熟練職人を必要とするもの
・狭い地域ですばやく加工しなければならないもの
が挙がってきました。こうしたロットの少ないものに対して、個々の研磨加工業の方々 が個別に受注するのは非常に非効率であり、またロットの少ないものでも集めて受注を受けた方が受注し易いのでは、という産業の強みから「共同受注でやれば受注ができるかも?」という結論が導きだされ、「磨き屋シンジケート」の構想が立ちあがったのです。
「磨き」をブランドにする。
もちろん磨き屋シンジケートの共同受注には多くのリスクや課題を抱えていたことも事実です。例えば、
・売掛債権および不良品のリスクを誰が負うか
・品質の標準化、ノウハウの共有
・受注者の決定
・引き合いに対するレスポンス
・生産管理
・PRの手段
といったことが挙げられました。これらについては、燕商工会議所が中心となり、長い時間をかけて、シンジケート加盟の45社と地道に議論を重ねることで、共同受注マニュアル、生産管理、技術標準マニュアルといったものを定めながら、生産体制の整備を進めていきました。これは、ひとつの組織ではできることではありません。組織を横串することができるかどうかが大切になります。燕商工会議所の高野さんは、自分がやらなきゃ誰がやるんだ、そして最後までやり続けることこそが成果につながると信じ、続けてきたそうです。
この取組みが品質保証となり、磨き屋シンジケートの「磨く」ことが「ブランド」となっていくのです。それは、既存の地場産品に「磨き」で付加価値をつけることになり、消費者の方々からハードそのものでなく、感動を買ってもらうことへつながっていくのです。つまり、ものづくりの付加価値とは、感動を創造することなのです。
地域ブランドとしての戦略
今では、多くの受注を受けるまでに発展した磨き屋シンジケート。パソコンの天板ミラー仕上げ、ジェット機主翼研磨、ビール会社等のノベルティー用のビアカップ、ステンレス製エコカップ、建築金物、美術品まで、非常に幅広い分野で「磨き」の技術が広がっています。「磨きは燕」とイメージされるような地域ブランドづくりを積極的に展開しているのも一つの特徴といえるでしょう。高い技術水準を生かし、また発展するため、技術開発・商品開発・システム開発はもちろんのことですが、積極的にTV・雑誌・新聞等への出演や国内外の見本市への出展を重ねることで「燕市=職人技×先端技術」というイメージを全国に普及させることもしていきました。こうしたイメー戦略を地場産業全体に波及させていったのです。
しかし、そこには「人」が中心でなければなりません。「人が作り、人で売る」というコンセプトのもと、商品にストーリーが見える工夫をたくさんしているのです。
例えば、
・価格帯・数量により、中心になる職人を選定する。
・職人を中心とした製品作りする。そこには製品づくりのストーリーが生まれる。
・TVや新聞といったメディアを活用する。
・ものづくりの現場を開示して、ストーリーをお客様と共有する。
・商工会議所や行政と連携することで、地域振興とビジネスが結びつく
弱みを強みに変えていこう
燕商工会議所の高野さんは「弱みは強みになりますよ。」とおっしゃいます。あるマイナスの側面をもつ事象も、捉え方一つで明るく、何か突破口のようなものがみつかるのではないでしょうか。高野さんは例えばこのように捉えていったそうです。
地域産業である、ということは地域連携だからできることがある!
・地域全ての業種の企業や行政をまとめることができる。
・補助金を得ることができる。
・失敗が許される
・地域の企業と既に信頼関係がある。
・垂直の繋がりではなく水平につながることができる。
中小企業である、ということは中小企業にしかできないことある!
・自前の技術で自分の好きな製品を自分の向上で作れる
・プロダクトアウトができる
・作り手の顔が見える=ストーリー
・地域ぐるみで製品を作れる
・レア感を生み出せる
こうした考え方をする秘訣は、「これがある!というより、これしかない!」という要素を集めてみて、自分を楽しくしていくことだとおっしゃいます。自分が楽しめなくては他人を楽しくすることはできないのです。職人さんたちも口をそろえて言います。「技術があれば何も怖くないよ。」と。
とりあえずやる。すぐ動く。
組織の壁や多くの職人さんたちとの連携、共同受注マニュアル、生産管理、技術標準マニュアルなどのシステム構築など、様々に困難が立ちはだかるなか、高野さんを支えたものは何だったのでしょうか。それは、「とりあえずやる。すぐ動く。」だそうです。
・考えすぎるとどんどんできなく出来なくなります。
・だから思い立ったらすぐ動く。
・自分達のできることをとりあえずやる。
・そして小さな成功をおさめよう。
・自分が楽しくなければ広がりを見せません。
・会った人をどんどん巻き込もう
・そして自分たちで続けていきましょう。
そして、最後に「やり続けなくては成功しません。成功するまで続ければ必ず成功します」。