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地域ブランドを追求する波佐見焼き。空き工房を活かしたものづくり

地域ブランドを追求する波佐見焼き。空き工房を活かしたものづくり

    CATEGORY: AREA:長崎県

焼き物の職人の高齢化による担い手不足と、それに伴う空き工房の増加。そんな多くの地方で起きている問題を、移住者によるスタートアップで前に進めようとする取り組みがある。

長崎県東彼杵郡にある波佐見町。県内有数の焼き物産地として有名なこの場所で、空き工房をものづくりや事業の拠点として斡旋している福田奈都美さん。

移住の“数”よりも、“質”を大切に。使われていない空き工房を活用しながら、そこで暮らす移住者と地元住民が一緒に楽しく暮らす。そんな長い目で将来を見据えたまちおこしを、丁寧に時間をかけて行なっている。

地方創生:焼き物のまちを、ものづくりのまちへ

波佐見空き工房バンク」は、2016年10月から活動をスタート。職人の高齢化や担い手不足によって使われなくなった焼き物の工房などを、もう一度使えるように調査・整備。その物件の情報発信を行い、問い合わせの受付から空き工房の持ち主との契約にいたるまでをトータルにサポートしている。

空き工房の斡旋のPRをしたり、貸し出すことのできる空き工房を集めるのも活動の一つ。多くの空き工房の所有者は高齢の方で、SNSで告知をしても物件が集まらないため、町の広報誌などを使いながら広めている。

地方に新たな産業を誘致

空き工房を求める声は、焼き物の作り手だけではなく、木工作家や染物、食品サンプル製作など、全国の幅広い業種からきているそう。活動を立ち上げた福田さんは、波佐見町を総合的なものづくりのまちとして発信していきたいと語る。

最初から焼き物作りに限定するつもりはなくて。できるだけいろんな人に工房を活用してほしいんです。焼き物以外の分野とコラボすることで、新しい企画やイベントなどの広がりが生まれると思っています。

地域のブランドを追求する

もともと地域おこし協力隊として、波佐見町で観光PRをしていた福田さん。ある時、東京で行われた移住フェアに参加した際に、他のまちと比べて波佐見町への注目度が低いことを感じたそう。

全国的に有名な農作物も、田舎ならではの海や島もない波佐見町で、何か移住希望者に訴えかける魅力がないか。そこで自然と浮かんだのが、古くから受け継がれてきた“ものづくりのまち”としての文化と歴史でした。

全国から注目を集める波佐見町に

かつては有田焼や伊万里焼の下請け作業も多く、焼き物の工程ごとに分業して効率を重視していたことでブランド力の乏しかった波佐見焼。しかしここ数年は、その自由で現代的なデザインと、ファッション感覚で楽しめる手の取りやすさで全国から注目を集めている。

そんな焼き物への注目を感じていた福田さんは、使われていない空き工房と、波佐見に拠点を置きたい人のマッチングに目をつけて「空き工房バンク」をスタート。一般の人では難しい空き工房の活用を援助するだけではなく、移住に関する細かな部分にも幅広く関わることで、借り手と貸し手が円滑にやりとりでき、結果的に地域の活性化も実現することができた。

地方の空きスペースを活性化

実際に空き工房を借りているのが、食品サンプルの制作・レンタル会社「日本美術」を営む野田祐輔さん。長崎県佐世保市で約50年に渡って活動してきた会社を波佐見町に移して、自らも移住することに。以前は器の生地を作っていた空き工房の大きなスペースは魅力的だったそう。

これまで主に飲食店向けの食品サンプルを卸していましたが、今後はキーホルダーの販売やワークショップなど、一般の方にも親しんでもらえるような会社にしたくて。この場所ならグッズの販売もできるし、食品サンプル作りの体験もゆっくり楽しんでもらえます。

移住者をあたたかく迎えるまち

ズラリと並べた食品サンプルも管理しやすく、作業スペースもしっかり確保。さらに奥にはきれいに改修した住居スペースもあり、快適に暮らしているそう。移住に関しても、地元の方々が積極的に協力してくれたと話す野田さん。空き工房バンクの福田さんが、その理由の一つを教えてくれた。

昔から波佐見町には焼き物の修行で遠くから来る人も多くて、移住者をあたたかく受け入れる土壌があるのかもしれません。私自身も福岡県出身ですけど、地域おこし協力隊として移住した当初から居心地よく暮らしています。

100人の人口増より、1人の魅力的な移住者

空き工房バンクの活動を始めてみると、予想以上に借りたい人のニーズが多く、今は物件の数が足りない状態とのこと。しかし福田さんは「単純に数を重視している移住プロジェクトではありません」と話す。

100人の人口が増えることよりも、1人の魅力的な人が来てくれることを大事にしています。その移住者がきて、まちがどんな風に変わったのか。その人が幸せに暮らしているのか。目先の数値目標ではなく、この波佐見町で暮らす一人ひとりをきちんと尊重したいんです。

これから波佐見町に拠点を置きたい人と、昔から波佐見町で暮らす空き工房の持ち主。どちらも納得いくように、焦らず時間をかけて進めている福田さん。自らこの場所に根付き、周りの人と一緒になって、これからも新しい繋がりを育んでいく。