徳島県の北東部に位置する、人口5000人ほどのまち、神山町。
その地域で10年以上も、「日本の田舎をステキに変える!」活動に取り組むNPO法人グリーンバレーの理事長・大南信也氏に、地域プロデューサー・齋藤潤一氏がお話を伺った。
大南信也氏(写真:右)
神山アーティスト・イン・レジデンスや神山塾を運営するNPO法人グリーンバレー理事長。若かりし頃、シリコンバレーで暮らし、スタンフォード大学院で学ぶ。移住・起業支援やサテライトオフィス誘致を推進。クリエイティブに過疎化をさせる「創造的過疎」を持論に、多様な人が集う「せかいのかみやま」づくりを進めている。
齋藤潤一氏(写真:左)
地域プロデューサー。慶應義塾大学大学院 非常勤講師/MBA (経営学修士)
1979年大阪府出身。米国シリコンバレーのITベンチャーで、ブランディング・マーケティング責任者を務め、帰国後に起業。震災を機に「ビジネスで持続可能な地域づくり」を使命に活動開始。ガイアの夜明け・NHK・日経新聞等に出演・掲載。
対談「ワクワクする未来の働き方」
齋藤 私もかつてシリコンバレーで学び働いていたのですが、大南さんがシリコンバレーでもっとも学んだことはなんですか?
大南 あんまり覚えてないなぁ(笑)
大学院時代に、工学部のフィールドトリップでいろいろなところに行きました。
その際に、あるダムの工事現場で、課題となっていた問題が、たまたま遠足でその場を訪れていた幼稚園児が発した一言がヒントとなって解決したという話を聞いたことが妙に心に残っています。
齋藤 幼稚園児の言葉が、解決のヒントになったとは?どういういみですか?
大南 結局どういうことかというと、問題を解決するヒントとなるキーワードは、誰が発するのかわからないということですよね。
偉い先生が必ずしもそういったことを言ってくれるのではなく、誰からそれがでてくるのか分からない。
齋藤 なるほど
大南 この経験から、自分が人に向き合うときに、「この人は、若いから、この人は子供だから」という目でみずに、フラットな関係の中で、同じ目線にたって、見聞きしたほうが正しい姿や物事のあるべき姿がきちんと見えてくるのかな、というのは印象に残っていて、今もずっと実践し続けています。
齋藤 今、多くの地域の事業が、1年や2年足らずで、補助金依存などから抜けきれず続かずに辞めてしまう。その中で、大南さんから「成果が出にくい10年、目に見えにくい10年」という話がありました。
大南さんがこれだけ長く、まちづくりに従事できる秘訣はなんですか?
神山プロジェクト大南さんの仕事術とは?
大南 1つめは、仕事から入っていない。その結果、成果を求められない。そして2つめが、期限が定められていない。この2つが結構大きいです。
例えばあるプロジェクトが決まった。自分たちの計画の中で進めていこうとすれば、当然期限を定めて成果を上げる必要があります。
齋藤 行政関係の仕事でも当然のようにKPIを求められますね
大南 結果それがない為に、急かされることなく緩やかに物事を考えられる。緩やかに物事を考えられる人間が集結しています。
また、1980年代半ばの話ですが、たまにはアメリカに帰りたいので、毎年のようにゴルフに出かけていました。2週間ぐらいゴルフバックをかついで3人ぐらいを連れて。一緒に長く旅行をしていると、人間は2-3日であれば自分を隠せる。ところがそれを過ぎたら地がでてきます。
齋藤 本性がみえてくるんですね。
大南 この人がこんなことを言い出すのか、と驚くような行動をとり始めたりします。4人居たとしたら4人全員がある意味丸裸になっていく。
その結果、何かを進めるときに、それぞれが、この人にこういう部分は絶対任せたらいけない、この人はここで力を発揮する、というのが感覚で皆分かり始める。
齋藤 適材適所でいいチーム分けができるということですね。
大南 僕は、やりたくないことはやらなくてよかったんです。
あいつはこんなことはやりたくはないだろうし、不得意だろうからあいつには任せられないと。とにかく自分の好きなことをやらせる方がいいだろうということで自然に全体の役割分担ができていました。
齋藤 リーダーとしての大南さんは自身をどうとらえていますか?
大南 リーダーシップのひとつの形としてよくあるのが、一般的に俺の後についてこいというものです。
またもうひとつ、群の最後尾にいて、緩やかに全体の方向をリードしていくというリーダーシップもあります。
神山はこの類型にははまらない、という話を西村 佳哲さん(働き方研究家。著書:自分の仕事をつくる (ちくま文庫) )から聞きました。神山はどういうリーダーシップなのか、と聞いたら「たぶん、浮遊するリーダーシップ」だと。
齋藤 浮遊するリーダーシップとは、なんですか?
大南 ある局面になったらある人がふっと浮き上がってくる。ではその人がその後ずっとリードしていくのかというと、局面が変わったらまた違う人間がすっと入ってくる。
これが変わりながら全体にアメーバー状にひとつの方向に流れていく。
齋藤 みんながリーダーシップをとれる。理想的ですね。
地方で働くキーワードは「ワクワク」
大南 神山や僕らの方向性といったらキーワードは「ワクワク」。どちらがワクワクするかという方向に緩やかに流れていく。
齋藤 失敗した点や気をつけておけばよかった点、1回転んだけれども立ち上がったなどのエピソードはありますか?
大南 たぶんあるんだろうけれど、無意識にやっていくのであまり自覚はしていないです。それから、あまり「失敗」に過敏にならない。人が考える失敗は基準がそれぞれ違いますからね。
齋藤 続けていれば失敗ではないですもんね。
大南 物事は、非常に良いアイディアで良いものだけれども時代が追いついてなくて実現しないということが多い。
それを「失敗」という形で自分が考えるかどうかという話だと思います。僕の場合、自分が進みすぎていて世の中の考え方が追いついていないということも多くあります。
齋藤 アイデアが、時代の先をいきすぎていた場合ですね
大南 こういったものは「失敗」として捉えずに、例えば、パソコンのデスクトップのフォルダで「未来フォルダ」みたいなものを1つ作っておいてそこに預けておくんです。
普通の人は失敗って見たらこれをドラッグしてゴミ箱へいれてしまいます。そうするとそれまでにつぎ込んだものや可能性が全て消え去ってしまう。
齋藤 大南流仕事術みたいな本が出そうですね!大南さんは、アンテナや感度が常に高く「こういうことが地域に起こる」「こういう未来が今後やってくるはず」と、よくおっしゃられていて純粋に面白いなと思ったのですが、これはなぜですか?
大南 これはモデルがあって。例えば僕は人の生き方とか、どういうふうにこれから世の中が流れていくのかを「カフェ・オニヴァ」の齊藤郁子さんから学んでいます。
あえて、曖昧でぼんやりさせたまますすめる
齋藤 どういうことを学ばれるんですか?
大南 例えば働き方、それから生きがいとか暮らし方。そういったものがこれからどういうふうに変化していくのかといったことですね。
それをひとつ自分の考えの中で読み替えていって、その情報を入れて未来はこういう姿になるのかな、というのを自分でおぼろげながらイメージをつくっていきます。
齋藤 それは、どんなイメージですか?
大南 これはひとつのポイントではなく星雲状のイメージです。ポイントにしてしまったら決めつけ過ぎてしまってその周りで起こる面白いことが消え去る可能性があります。
なので、ぼんやりとしたものをイメージとしておいています。
曖昧なままずっと漂わせておいて、それを少しずつ凝縮させていく。それが、僕のやり方ですね。
齋藤 なるほど、面白いですね。(大先輩に失礼かもしれませんが)少年の心をもったアリスの5人がワクワクやドキドキがある、面白いなという方向に進んでそこにいろんな人たちが増えてくる。
大南さんから「不思議と似た人たちが集まります」という話がありましたが、5人と似た人たちが集まって、アメーバー状に広がり、皆がそこに面白さを感じて惹きつけられているんですね。
大南 そうですね。たぶんトムソーヤとかハックルベリーフィンがそのまま年をとっという感じです。
齋藤 移住者が多くなると、住む場所や空き家利活用などが必要になりますが、いま地方では、空き家はあるがなかなか貸してくれないという問題も多いですが、神山はどう対処していますか?
大南 急がないようにしています。先ずは空き家活用の事例をつくり、それらを所有者にさり気なく伝え、自ら判断してもらい、少しずつ理解者・協力者を増やしています。所有者に余計なプレッシャーをかけず、ゆっくり、じっくりと進めていく。言わば、太陽作戦ですね。
課題やこうなって欲しい!は、ない
齋藤 神山が今後、どうなってほしいとう願いや想いはありますか?
大南 特にないですね。
齋藤 ないんですか!えー!面白いですね。
大南 自分は、大した想像力を持っていないと思います。なので、逆に自分の想像にとらわれない方がいいのではと考えています。
齋藤 今この瞬間を楽しんで活動しているというかんじですか?
大南 それと、方向性が間違っていなかったら絶対変な方向にはいかないという確信はあるので、それがひとつの磁石。
齋藤 その方向性というのは?
大南 向き合い方。人、地域、現場とまっすぐ向き合っているのかどうかだけの話ですね。
現れてくるいろいろなことに対して、例えば自分たちの邪心によって物事を見ていないかというようなことをできるだけきちんと。シンプルに。
齋藤 シンプルに向き合う。
大南 この向き合い方が誤っていなかったら、まっすぐ向き合えていたら本物ができあがって、そして本物には人が必ず集まってくる。常に本質的なものを見るように心掛けています。
齋藤 SDGsでも掲げられている「住み続けられるまちづくり」持続可能な社会。地産地消でお金が回って循環して外貨を稼いで中で動くというのを「循環」持続可能なモデルと捉えていますか?
大南 結局は昔日本で起こったことですよね。昔は地域内で経済はほぼ循環していた。
例えば昔は地域内に仕立屋さんがいて、僕らの父親の世代は全てスーツを地域にある仕立屋さんが仮縫いをしてつくっていた。
齋藤 いわゆる地産地消ですね
大南 そこの中でお金がまわれば、回っていく。多少高くても地域のものを買っていくということがつながっていけば経済が回っていく。それにグローバル化した状態をどのように新しい形として紡ぎ直すかという話だと思います。
齋藤 鎖国と批判されることもありますが、江戸時代は、文化が育っていました。地域内で循環させれば、神山文化みたいなものができますもんね。
大南 そうそう。いろんな多様な地域というのができあがったら、その多様性が大きな力を発揮していく。
齋藤 なぜそういう考え方に至ったんですか?
大南 2009年5月、イタリアを初めて訪れたことが転機となりました。空港からフィレンツェ旧市街まで5kmほどしかないのですが、1km近づく度に100年時代を遡る感覚で、到着するとそこには西暦1500年頃の濡れルネサンスの時代が広がっていました。
それまでアメリカ的なものばかり追ってきた自分には衝撃でした。
齋藤 原風景が残っていたんですね
大南 東京は、新陳代謝が多い分、行くたびに風景がかわる。だけど、イタリアの地方都市この町は数百年後にもし自分が蘇ってもきっと同じ風景がひろがっているのだろうと。
これが本質的な価値じゃないのかな、と思いました。東京みたいに表面的に変化することが価値ではなくて、本質的なものは、「変わらない選択をする事」なんじゃないかなと思い始めました。
齋藤 僕もドイツのフライブルグという町で全く同じように感じました。風景と伝統と文化を守りながら、さらにそれを観光の目玉にして外貨を稼ぐ。伝統と文化を守りながら進化して、現代にあわせた形にしているというのは面白いと思いましたね。神山も良い風景が変わらないままどんどん面白い人が入ってきたらいいですよね。
時代は、振り子のように行って、戻ってくる。
大南 日本の町って写真をとってシンボルとなる山とかが映らなかったらほとんどの人が言い当てることができないと思うんです。それだけ他と差別化できなくなってきている。同じようなものがつくられていること自体がなんとなく違和感を感じます。
齋藤 原風景がめちゃくちゃになってきているという感じはしますよね。僕は毎年シリコンバレーにいくのですが、パロアルトがだいぶ変わっていて。パロアルトでも先ほどおっしゃっていた地産地消、Eat Localというのを進めていました。
大南 バークレーの影響ですかね。バークレーは結構前からファーマーズマーケットをやっています。結局は世の中ってああいうことで、1960-70年代ぐらいにヒッピーがでてきた。
当時、地域としては受け入れなかったけれども、それから40年近く経過するとヒッピーの人たちがその人たちの子供も含めて多少保守化してきました。それがちょうど時代とあっていて。地産地消というのは、ある意味ヒッピーそのままの文化。それに時代が追いついてきたという話だと思います。
齋藤 そうやって巡っているということはありますよね。
大南 そうそう。振り子のように。それはありますね。
齋藤 人材育成で大事にしていることってありますか?
大南 神山塾を始めたとき、僕らは職業訓練といってもそれぞれのテクニックを教える力はそんなに持っていませんでした。
なので、塾の受講者たちに、その期間中にそれぞれがひとつのスモールプロジェクトを完結させて、自分たちで、地域が変えられるかを1つのモデルづくりで体験してもらおうと考えたのです。
それぞれに自分が見つけた課題の中で解決させる。大事なのは自分に小さな成功モデルをつくることなんです。
齋藤 自分ごとにして成功体験を積むということですね。長い時間インタビューにお答え頂きありがとうございます!
最後に
大南さんに関する本や記事を読んでいると「人」というキーワードがたくさんでてきます。それから、「大南マジック」というのも何回かでてきます。
僕もいろいろな方とお話しさせていただくのですが、多くの地域リーダーとよばれる皆さん共通して「愛」がある。
愛というのは別に人間愛だけではなくて、もっと大きなもので、地球とか、もっと良くなればいいなという愛みたいなものを感じることがあります。なので、その辺りで大南さんがいろんな人とフラットにフィルターをかけずにお会いするというのはすごく良いなと思いました。(齋藤氏)