face to faceを生みだす芸術によるまちづくり

地域の島々を舞台とする、今までに無い芸術祭として世界中から注目を浴びる瀬戸内国際芸術祭。人々を惹きつけて止まないこの芸術祭が目指すものは何でしょう。瀬戸内国際芸術祭の総合プロデューサーである北川フラム氏から、この芸術祭にかける想いについてお話をいただきました。


地域に根差した芸術祭のために

瀬戸内国際芸術祭の総合プロデューサーである北川フラム氏は瀬戸内国際芸術祭を開催するにあたって、その背景として次のような項目を挙げられました。
・過疎高齢化の島を元気にし、今後の展望をつかむ。
・アートサイト直島のブランドを活かし、香川の観光力を高める。
・瀬戸内海を地球環境時代における希望の場所とする。
サポーターこえび隊を媒介として、官民協働の仕組みをつくる。
・美術・文化による地域づくりのモデルとして、世界的なネットワークを作る。
・芸術祭を契機として舟運、二次交通等のインフラを整備する。
・香川の資産目録を作り、発信する。

これらの項目を一つ一つ眺めていくと、ただの展覧会ではない、地域に根差した芸術祭にするのだ、という想いが伝わるのではないでしょうか。
瀬戸内海を「希望の場所」に

この中で特に北川氏が力を入れてお話されていたのが、「瀬戸内海を地球環境時代における希望の場所とする」ことでした。
私達の価値観は最新の情報がたくさんあるところに最短にアクセスできることに重きが置かれています。近年の都市の集中する複合商業施設は、その象徴といえるでしょう。その価値観を維持するために、お金を無限につぎ込み、無限に新しい情報をいつ終わるともなく追い続けることになります。

都市には刺激と興奮と競争があふれていますが、それ以外に惹かれる魅力ある「何か」、を都市に住む人たちは感じ始め、いろんな動きがあるのも事実です。しかし、その一方で地域は、先程のような刺激と興奮といったものが感じられなく、何か遅れているのではないか、という意識を持ってしまいがちでもあります。しかし、今こそこうした従前の枠組みを見直すべきであるし、都市と地域のキャッチボールが大切なときなのです。

「地域の過疎化や疲弊は、コミュニティが消失するだけでなく、自分達の先祖がやってきたことすら否定するようになり、地域に対する誇りを失うことにつながる」と北川氏はおっしゃいます。しかし、本当はみんなその地域で「生きよう」としてきた希望の場所であるのです。芸術祭がきっかけとなり、瀬戸内が先頭となり、それぞれの地域が「希望の場所」であることを、人々の心に呼び覚ましていくことを目指しているのです。
「海の復権」というテーマ

瀬戸内地域と海は切っても切れない関係。海には人々の生活や文化の全てがつまっているからです。芸術祭では「海の復権」としてテーマを掲げ、日常に埋没してしまったその素晴らしさをもう一度再認識することで、自らの生活や文化を見直してみようとする願いが込められています。
北川氏は「海の復権」のために、次の6つの視点からアプローチをしています。
・アート・建築
・民俗・生活 地域と時間と住民(島のお年寄りたちの元気)
・交流:日本全国・世界各地の人々が関わる
・世界の叡智が集う
・次代を担う若者や子どもたちへ
・縁をつくる

主なものをみていきましょう。
・アート・建築
心臓音のアーカイブ(クリスチャン・ボルタンスキー:豊島)

海を渡らないと行けない、そのことが、非日常を考える機会となり、自分自身や人類の行く末を考えるきっかけをつくっています。
小豆島の家(王文志:小豆島)

海を渡り、その地域にある美しい棚田や中村農村歌舞伎といった「そこにしかないもの」を感じてもらいたいという理由から、この作品を小豆島に置いたのです。そして、作品には地元にある「竹」を使っています。地元の素材のことは地元の人たちが一番その使い方を知っています。地元の人たちの手が入ることで、アーティストだけでなく、島の人たちの作品ともなっていくのです。
・交流:日本全国・世界各地の人々が関わる

いままでのまちづくりはその地域に住む人たちだけがやる、という閉鎖的な場合がほとんどでした。しかし、本当は他者を受け入れないことには地域の活性化は成り立ちません。どう開放していくかが重要であり、ツーリズムとも関連します。「現在グローバリゼーションと言われているのは情報と金融の世界だけです」と北川氏は言います。そして「人と人が直接顔を突き合わせるというところまでは到達することが本当の交流でそれを目指していかなければなりません」と提言されます。島にきていただくのはもちろん、番組を世界に配信したり、国際シンポジウムを開催したりと、日本全国・世界各地の人々が関わる仕掛けが芸術祭には散りばめられているのです。
・世界の叡智が集う
「遠景の瀬戸内を知っていても、それぞれの島々が持つ個性を感じたことはなかった。」と北川氏はおっしゃいます。それは海を渡ることによって初めて感じることで、海を渡るすごさでもあります。こうした、個性をもつそれぞれの島々が、それぞれのテーマをもった出展でこの芸術祭を盛り上げています。そのテーマはわたしたちに「ほんとうの豊かさとはなんだろう?」ということについて問いかけるものでもあります。
 直島 地域の未来をアートが開く
 犬島 里海から多島海へ
 豊島 食と農 地域の新しい豊かな生き方
 小豆島 ツーリズムの可能性
北川氏が想う豊かさは、「ゆっくり歩けば良く見える」。急いでいては見えなかったものが、ゆっくりゆっくり感じながら歩いていくことで、その一つ一つの良さや新たな面を感じることで心豊かになっていくというもの。芸術祭を歩くと、まさにこのことが実感できます。自然の美しさ、人々の温かさ、受け継がれる伝統や文化の尊さ…。たくさんの良いものを感じて、心を豊かさでいっぱいにしてみませんか?
face to faceで向き合う世の中を

「それぞれがface to faceで向き合う世の中を」北川氏はそれを力説されていました。瀬戸内国際芸術祭はアートを通して、人々の交流を生むことに一番重点が置かれています。普通の展覧会ではアーティストとそれを鑑賞する人、という交流しか生まれないのが一般的。この芸術祭では、観賞する人同士、地元の人々、ボランティアの交流、そして世代や時代を超えた交流も生み出しています。
こうした、いままで触れ合うことのなかった、face to faceで向き合うきっかけを生みだしているのが「芸術」の役割ではないでしょうか。そして、またそこから生まれる新たなものの素晴らしさ、そこまでを見通しているのが、瀬戸内国際芸術祭の本当の目指しているところなのかも知れません。

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