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数奇な運命に導かれリケジョから宮司に転身|1300年の歴史に埋もれた古社復活までの道のり

決めたらすぐに実行するのが東川さんだ。当時の宮司に掛け合い、神職に就くべく行動を開始する。まずは三重県伊勢市にある皇學館で神職後継者のための講習会に参加し、主席で卒業。奈良県の橿原神宮の実習を経て直階、権正階の階位を取得する。新しい学びは驚きの連続で、学友たちに「キラキラしている」と言われるほどに楽しかったという。

とはいえ、生活に追われる日々に変わりはない。神社の復興が収入につながるわけでもない。すべて承知で邁進した。ただただ生きがいが欲しかった。それに東川さんには「神様に招かれている、この道に呼ばれている」という確信があったという。学費を支払う段になると不思議と「お金が降ってくるかのよう」な機会に恵まれたからだ。

「先代の宮司について経験を積み、御歳神社の歴史等も資料を集めて勉強しました。一見、神職としての道は順調のようでしたが、神社にはひとつ大きな問題がありました。氏子さんたちとの関係が途切れていたんです。例大祭でさえ、氏子100人のうち3人ほどが出席する程度でした」

氏子たちとの関係改善から始まった復活への第一歩

奈良と和歌山を隔てる葛城山麓には、大和の初期王朝における歴代大王に皇后を輩出した一大勢力があったとされる。その名は葛城氏と鴨氏。周辺には上鴨こと高鴨神社、下鴨こと鴨都波神社、そして中鴨と称される葛木御歳神社の三社が並び立つ。わけても御歳神社はコメの収穫を司る神として広く尊崇を集めてきた。「お年玉」の由来とも関わりが深い神社だ。

かつては奉幣に与るなど、朝廷からも特別に遇されてきた神社が孤立した一番の理由は少子高齢化。人々の暮らしから神社が切り離されていたのだ。氏子あってこその神社。そこで東川さんは、関係改善の道を探って何度も話し合いの場を持つ。しかし、氏子の側からすれば「よそから来た若輩者が何を言っているのか」という気持ちが少なからずあったことだろう。

「怖いもの知らずだったんです。『自分は正しいことをしているんだ』という強い思い込みもありましたし。精神的にちょっと普通じゃなかったんでしょうね。追い詰められて、そこで見出したものにすがり付いて。語弊がありますが、新興宗教にはまり込むような感覚じゃなかったかなと、今振り返ってみるとそう思えますね」

氏子たちと辛抱強く話し合いを続ける一方で、東川さんは神社を盛り上げるために自ら積極的に動いた。

■Webサイトを立ち上げ情報発信

まずは、自身で立ち上げた神社サイトで積極的な情報発信にとりかかった。学習塾で発行していた生徒向けの「通信」で培ったノウハウを活かし、800~1300字で神社にまつわるあれこれを綴っていく。すると、外部の神社好きの人たちから反響が上がり始めた。古社の窮状を見かねて「境内の整備を手伝いたい」とボランティアが集まってきたのだ。

■クラウドファンディングで、サロン&カフェのオープン資金を募る

集まったボランティアの力を借り、本殿、手水舎、階段などを修理し、磐座が点在する背後の御歳山も登拝できるように整備した。「平成の大修理」に費やした年月は10年。その間に神社横に転居し、自宅の一室を氏子や参拝者らの集いの場にしようと改築してサロン&カフェ「みとしの森」もオープンした。資金は、たまたまテレビで特集していたクラウドファンディングで募ったというから驚きだ。

「カフェではミュージシャンを招いたライブやコンサート、神社講座などを開催しています。人前で話すコツも心構えも、塾経営で身につけたもの。これまでのすべての経験が無駄ではないな、というより、ここに行き着くために今までの人生があったんだなと思えますね」

御歳神社の未来を紡いでいく。まだまだ続く東川さんのチャレンジ

途絶えていた神事も復活させた。そうした話題も呼び水となり、氏子の皆さんに歴史好き、神社好きの参拝者など、元来、人々が集う場だった境内という空間に人の往来が戻り、また輪ができ始めている。まだまだ1300年前の活気には及ばないだろうが、それでも御歳神社は確実に往古の姿を取り戻しつつあるのだ。

東川さんの次の目標は祖霊社の建立だという。神道では「人は神様の分け霊(みたま)をいただいて生まれ、それを終えると祖霊神になる」と考えられている。生まれ変わりも極楽もない。神の宿る山へと帰って、子孫を見守る存在の一員となるのだ。つまり御歳山にも、ご祭神と共に先祖代々の祖霊が鎮まっているはず。「だったら、きちんとお祀りするべきじゃないかと思ったんです」と東川さんは語る。

次々に湧き出てくる葛木御歳神社復興に向けてのアイデアと情熱。多くの人たちの支えを力に、生まれ変わり続ける社の姿と東川さんの活躍に、これからもぜひ注目していきたい。

【葛木御歳神社の公式ホームページ】http://www.mitoshijinja.jp/
【祖霊舎建立のクラウドファンディングの詳細】https://readyfor.jp/projects/20304/

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