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数奇な運命に導かれリケジョから宮司に転身|1300年の歴史に埋もれた古社復活までの道のり

(写真提供 中島 未月 氏)

世の中には“縁”というものが存在するのだろう。偶然の出逢い、突然の転機、思わぬ決断。振り返ればまるで何かに導かれたかのような道のりに、人は不思議な力を感じてしまうものだ。

今回取材した東川 優子(うのかわ ゆうこ)さんは、この国の始まりの神とされるイザナギ・イザナミの名すら朧げだったという生粋のリケジョ。ところが、まさに“縁”としか言いようのないめぐり合せから、創祀1300年以上とされる古社、奈良県御所市の葛木御歳神社の宮司へと40代で転身。荒れ果てた姿から蘇らせ、再び地域の核となるまでに見事復興させていく。

研究者から陶芸家へ。その先に待っていた古社とのめぐり逢い

東川さんは大阪生まれ。何不自由のないお嬢様として育ち、やがて進学した奈良女子大学では環境生物学を専攻、大学院へ進もうかと考えていた――その時に、第一の“出合い”が訪れる。茨城県で行われた学会の帰りにふと立ち寄った焼き物の工房で笠間焼に一目惚れ。しかも、住み込みの陶芸家志望者を募集する張り紙を目にしてしまうのだ。

「即座に申し込んでいました。思い立ったら行動しちゃうタイプなんです。両親には事後報告でしたが、父は私の希望に対して『何でもやってみなさい』といつも応援してくれていたので、何とかなるだろうと。反対する母を一緒に説得してくれました」

こうして、晴れて陶芸家見習いとしての住み込み生活がスタートする。店頭で販売する湯呑100個を作成するといった仕事の傍ら、技術の習得に取り組む日々。しかし、慣れない環境での初めての一人暮らし、しかも隙間風が吹き込む部屋は、後日、迎えにきた母親が驚くような状態だったというから、一年半ほどで体調を崩してしまう。

仕方なく住み込み生活は切り上げるが、陶芸は続けたい。そこで、自宅に窯を設置できないかと相談に訪れた先で、第二の“出会い”が待っていた。陶芸家の男性を紹介されるのだ。彼の生みだす作品に惚れ込んだこともあって、めでたくゴールイン。夫の郷里である奈良県御所市に転居し、専業主婦となって作家としての伴侶を支えようと決意する。

「新居のすぐそばに鎮座していたのが御歳神社です。といっても、ほとんどお参りをしたことはありませんでした。創祀は神代ともされ、平安時代には従一位を賜った由緒ある古社ですが、当時は『そうなんだ』というぐらいの認識で。鬱蒼とした森の中にありましたしね」

まさかの暗転。手探りの中、夢中でつかんだのは神職への道

ところがある日、大きな転機に飲み込まれる。父親の経営していた会社が倒産し、暮らしが一変するのだ。東川さんは家計を支えるために学習塾を開き、個人塾や家庭教師をかけもちするが、住宅ローンを返せば財布に100円玉しか残っていないようなことも。それでも周りに困っているとは言えなかった。何かに誘われても断るだけ。プライドが高かったのだ、と当時を振り返る。

虚しさが募るなか、神が宿るとされる御歳山の深い緑に抱かれた神社へと、吸い込まれるように足が向いていた。木漏れ日が差し込むだけの境内は森閑としている。けれど温かなものに包まれ、「よう来たな」と迎え入れられたような気がした。と、心の奥にフタをしていたものがあふれ出し、声を上げて泣けたという。第三の、そして最後の“出逢い”である。

「嘘のように心が軽くなりました。同時に『この神社を誰かがちゃんと継がないといけない』と思ったんです。境内は手入れが行き届かず、建物にはコケが堆積し、壁や屋根が壊れている状況で、本当に荒れ果てていました。それに後を継ぐ人も決まっていないという話だったんです」

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