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地方で生き残る、広島の街なか映画館「八丁座」Uターン×継業、シネコンには無いものをつくる

広島市に引っ越してきた頃、映画好きの知人から教えてもらった映画館が「八丁座」でした。八丁座は、デパートや有名店が集まる中心地・八丁堀のど真ん中にあります。戦前から続く老舗デパート「福屋」の8階にある八丁座に足を踏み入れると、そこには立派な松の絵が描かれたふすま、行灯、歌舞伎座のようなシアタールームなど、他の映画館ではお目にかかれない和の空間が広がります。上映する作品も、ミニシアター系の個性的なものからメジャー作品まで幅広く、多くの人びとを魅了しています。

 地域で郊外型シネコンが増えるなか、オープンして約8年のユニークな「街なかの映画館」が、人びとに愛される理由は何でしょう。運営会社「序破急」の3代目として、東京からUターンで八丁座の支配人を務める蔵本健太郎さんに、八丁座が大切にしている思いやユニークな取り組み、街の映画館が生き残る秘訣などを伺いました。

Uターンして継業、街なかにこだわった映画館

2010年にオープンした八丁座の原点は、70年代に遡ります。蔵本さんの祖父が1972年に開いた映画館「サロンシネマ」は、ソファやテーブル、飲み物が注文できるボタンまで付いたぜいたくな椅子、スクリーンの前に日本庭園があるなど、当時としては珍しいサロン風の映画館でした。時代とともに映画産業が斜陽化し、客足が減る中で、オールナイト上映会など新しい試みに挑戦。平成に入るとミニシアターブームが到来し、サロンシネマの他にもいくつかの映画館を市内に立ち上げていきました。

祖父は、当時珍しい映画館や企画を興すなど、豪快な人でした。東京から戻った私の母(現社長の蔵本順子氏)も、跡継ぎとしていくつものミニシアターを手がけながら、もっと市の中心地、街なかで映画館をやりたいと考えていました。90年代に入ると、シネコンブームの中で閉館する映画館が相次ぎ、広島市の一等地にある老舗デパート「福屋」に入っていた映画館も閉館することになったのです。

ここに新しい映画館を作ろう!と決めたものの、周囲からは「街なかの映画館の時代は終わった。これからは、シネコンの時代」と猛反対を受けました。それでも「街に映画の灯をともし続けたい」という情熱と信念によって、福屋デパートからの理解も得て、八丁座のプロジェクトが始まったのです。江戸時代の芝居小屋のように、街に暮らす庶民の元気の源になるような映画館にしようと決めました。

蔵本さんは、この大きなプロジェクトにゼロから関わりました。元々蔵本さんは、東京で美術専門学校を卒業後、東京のデザイン会社や工場などで働いていました。アジアを巡る旅などもしながら生きる道を模索していた時に、当時のサロンシネマ総支配人から、広島に戻らないかと声がかかったのです。

とても想いの強い映画館だけに、家業だからといって安易に自分が継ぐという考えはありませんでした。ただ、東京での暮らしは想像していたよりも孤独で、子どもの頃から好きだった映画は、常に私の心の拠りどころでもありました。だからこそ、映画館の運営に関わってみようと決心しました。広島に戻って、序破急が運営する別の映画館のオープンに携わった後に、いよいよ八丁座のプロジェクトを立ち上げることになったのです。

オーダーメイドの椅子づくりに1年

八丁座を立ち上げるにあたり、最初にこだわったのは、芝居小屋や映画撮影の雰囲気を大切にしたいという想いでした。美術監督として名声を得ていた部谷京子さんを迎えて、映画館全体をデザイン。スクリーンの前には昔ながらの幕が下り、提灯が飾られています。館内には撮影所で使われていた行灯やふすまが置かれ、すべてのドアに日本画で四季が表現されています。日本の伝統的な芝居や撮影所の雰囲気は、訪れた人を非日常の異空間に連れて行ってくれるのです。

心地よい空間を作りたいと、シアターにはさまざまな工夫が凝らされています。以前ここにあった映画館では368席が設置されていたところを、八丁座では170席に。各席は幅が85センチもあり、隣と共用でないひじ掛けが両サイドに、足元にはゆったりとした通路があります。靴を脱いで上がれるような畳の席もあります。また、シネコンなどに比べると席の傾斜がゆるやかなのは、客席全体がリラックスして一体感を持てるようにとの配慮から。さらにシアターの椅子には、驚くべきこだわりがあるのです。

心地よい非日常の映画空間を演出する上で、椅子には大切な役割があります。そこで、地元で有名な木工製作所「マルニ木工」さんに、飛び込みで相談に行きました。マルニ木工さんは、これまで劇場用の椅子は経験がなかったのですが、コンセプトに共感してくださり、1年以上かけて一緒に椅子を開発したんです。

デザインや座り心地とともに重視したのが、「後ろから見た時の美しさ」です。お客様は、前に並ぶ椅子の後ろ姿を常に目にするからです。マルニ木工さんの高い技術によって、美しいカーブを描く木製の背もたれが完成しました。マルニ木工さんは「人を呼ぶような椅子」と表現していますが、まさにお客様が引き寄せられて、座りたくなる椅子になりました。

シネコンとの差別化、非効率な映画館

八丁座を訪れると感じるのは、人のぬくもりです。まるで旅館のような雰囲気の受付には、その日の上映スケジュールが手書きで張り出され、チケットは自動発券機ではなく、スタッフ一人ひとりが発券してくれます。また上映前には、毎回スタッフが幕の前に立ち、注意事項などのお知らせのほか、ときには上映作品にまつわる話をしてくれます。スタッフによって話す内容が変わるところにも、人間味を感じます。

人の手をかけることや、観客席をゆったり贅沢に作ることは、ある意味で非効率的とも言えます。でも、そこにこそ「人間らしさ」というか、人間がやっている映画館の姿があると思うんです。今の時代はシネコンが広がり、効率的な運営がされています。設備や上映作品の編成など、どこへ行っても同じで、まるでコンビニのように均一化されているようにも感じますね。八丁座では、接客も含めて、人のぬくもりを感じていただけるように意識しています。

この考えは、スタッフの育成にも表れています。八丁座では、館内スタッフのほとんどが、アルバイトではなく社員だそうです。映画好きなスタッフがほとんどで、業務時間が終わった後に、有志参加のスタッフ向け試写会が頻繁に開かれています。一見非効率にも思えるかもしれませんが、社員全体で映画への想いを共有しながら運営することで、映画館を盛り上げる意識につながっているそうです。

目指すのは「映画のセレクトショップ」

八丁座の魅力は、館内デザインや運営だけでなく、もちろん上映作品のセレクトにもあります。メジャーな作品もあれば、ここでしか観られないような個性的な作品もあり、そのバランスが絶妙です。

八丁座を訪れるお客様が、1年を通してずっと満足していただけるように、多様なラインナップを揃えています。メジャー・マイナーにこだわらず、いい映画を選びたいと思っています。映画のセレクトショップのようなイメージですね。また、広島にある映画館の使命として、毎年原爆関連の上映会を企画しています。

蔵本さんにとって特に印象深い映画の一つは、広島を舞台に戦時中の暮らしを描いたアニメーション「この世界の片隅に」だそうです。

この映画を1年以上にわたって上映し続けたのは、全国でも私たちだけでした。オールナイトイベントを開催した時は、ちょうど8月6日の平和記念日の前日だったこともあり、全国からお客様が集まりました。映画の中で、当時の福屋デパートが描かれていることから、この映画館で上映することで相乗効果があったように思います。監督には、舞台挨拶やトークショーなどで8回も八丁座に来ていただき、毎回「おかえりなさい」と言葉をかけるような、いい関係ができています。
通常、映画は公開スタート時をピークに、客足が減っていくのですが、この映画は始まってから徐々に客数が伸び、ずっと増え続けるという異例の映画で、20年に1本の映画だと思いますね。

地域に必要とされる「街なか映画館」

オープンから8年。八丁座の動員はずっと増え続け、安定しているそうです。老舗デパートの中という場所柄もあって、観客の年齢層は比較的高いものの、私が訪れた時にはさまざまな年代の人びとが集っていました。蔵本さんに、八丁座が選ばれる理由をたずねると、こんな答えが返ってきました。

先代の祖父や母が手掛けてきたミニシアターでは、常連客の多くはコアな映画ファンでした。一方、八丁座は、多様な人びとが集まる街の中心地にあるので、より幅広いお客様が心地よく過ごせることが求められています。ただし、上映作品のラインナップにも館内の雰囲気にも、個性的なこだわりの部分を「隠し味」として入れているつもりです。

お客様からは「この映画を上映してくれてありがとう」「八丁座なら上映してくれると思っていた」などと声をかけていただきます。また、八丁座にしかないような和の空間や雰囲気、居心地のいい椅子なども、お客様の満足につながっています。

 
さらに蔵本さんは、「街なか映画館」だからこその魅力を語ってくれました。

シネコンにはシネコンの良さがありますが、映画を見て、ショッピングモールで買い物や食事をして、駐車場に戻って…ということが、流れ作業のような、決まりきった流れにも感じられます。街なかの映画館に来られるお客様は、街のさまざまなお店で買い物や食事をしたり、ぶらぶらと散歩をしたりしながら、寄っていただくことが多いと思います。映画を観終わった後、街に出たら景色が違って見えたり、いつもと違う店に行ってみたりすることだってあるかもしれない。街を楽しみながら映画館へ行くって、やっぱりドキドキ・ワクワクがありますよね。だからこそ、この広島の街なかから、映画文化を発信し続けていきたいですね。

地方の映画館が生き残るために

八丁座は、人のぬくもりを大切にする街なか映画館だからこそ、訪れる人びととの距離感が近く、その声をキャッチして、映画館の運営や上映作品の選定に活かしてきました。

八丁座は、8年前に全力で離陸してから、今は安定飛行の状態に入っています。だからこそ、これからもお客様目線で続けていきたい。こうした土台があるからこそ、私たちが映画の配給会社にアドバイスをすることもあります。例えば、こんな映画への関心や反響が大きいとか、日本語タイトルはこうしたほうが伝わりやすいなど、お客様の立場から提案ができるんですね。映画と人をつなぐような役割と言えるかもしれません。

蔵本さんは、街なか映画館が少ない地方都市だからこそ、一つの映画館で自由に面白いチャレンジができる部分があると言います。一方で、八丁座のようなユニークな映画館は、日本全国で面白がってもらえるのではという想いも抱いているそうです。八丁座のこれからの挑戦と広がりに、注目したいですね。

DVDやケーブルテレビ、オンラインなど、さまざまなメディアでいつでもどこでも映画を観ることができる時代。それでも私たちが映画館を訪れるのは、そこでしか観られない作品があるからだけでなく、そこでしか得られない非日常の時間や居心地のいい空間、大勢の人と何かを共有する一体感や高揚感があるからではないでしょうか。そこに欠かせないのは、まさに八丁座が大切にする「人のぬくもり」「人間らしさ」であるように思います。それはきっと、これからの街の映画館が続いていくカギなのかもしれません。

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