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フードロス食材で、あったかい居場所!みんなの食堂「もったいないおばさんのたまり場」

広島市の中心を流れる太田川沿いに、70年代に建てられた巨大な市営団地群「基町高層アパート」。このアパートの中には、「基町ショッピングセンター」と呼ばれる商店街があります。

かつては多くの市民が入居し、賑わいのあった商店街ですが、入居者や店主の高齢化が進み、シャッターが開かない店も増えています。今は食料品店や飲食店、理容室などがちらほら立ち並ぶ商店街の一角に、なんだか目を引く看板が…。「もったいないおばさんのたまり場」!? 気になってドアを開けてみました。

はじまりは、工場で廃棄されていた規格外のうどん

代表の井上洋子さん

お店に入ると、明るい笑顔の代表・井上洋子さんが迎えてくれました。壁に張り出されたメニューには、うどんやおかず、カレーなどが並んでいます。驚かされるのは、その値段。うどんやちらし寿司、きんぴらや煮物などのおかずは、すべて130円。一番高いカレーでも250円。なぜこんなに安いの?と思っているところに、目に飛び込んできたのは、この張り紙。

このお店が始まったきっかけは、食べられるのに廃棄されてしまう食品「フードロス」なんです。この食堂の運営母体であるNPO法人「よもぎのアトリエ」は、元々、無農薬や無添加のヘルシーな食材で作ったお弁当の宅配サービスを通じて、高齢者をはじめ地域で暮らす人たちのサポートを行っていました。

12年くらい前に、広島市内のうどん工場で、パッケージに記載された重量よりも多かったり少なかったりするという理由だけで、うどんが廃棄されていることを知ったんです。ちょうど、この基町エリアでフードロスに取り組む方とご縁があり、こうした食材を活用して食堂をやろうということになりました。

スタッフや地域の住民も、「もったいない」を持ち寄り!

その日に入った食材によって、さまざまなおかずが並ぶ。

食堂では、週1回うどん工場を訪ね、規格外のうどんを回収しています。また、スタッフや近所の住民が持ち寄った、家庭で使わない・食べきれない食品や家庭菜園で採れた野菜なども使っています。

農家の方が、軽トラックの荷台いっぱいのフキを、わざわざ運んで寄付してくれたこともあったそう。どれもこれも、たくさんの人の「使わないともったいない!」という想いがつまっています。ただ、最近の課題は、近隣住民の減少や高齢化が進んでいることもあって、提供される食材が減っていること。

この食堂では、捨てられてしまう食材を中心に使い、スタッフ4人は完全ボランティアです。だからこそ、安い値段でおいしい食事を出して、地域の人たちを支えられる。それでも、家賃や光熱費、必要な食材や備品、スタッフの交通費などがあるので、利益はほとんどありません。

さらに、食材が十分に確保できないので、とても大変です。一方、世の中では、まだまだたくさんの食品が廃棄されています。こんなに、ばかばかしい話はないですよね。こうした問題は、誰かがやらないと、どんどん流されて行ってしまう。もっとスーパーや企業などから、フードロス食材を定期的に提供してもらう流れを作りたいです。

いい匂いに誘われて。人びとが立ち寄り、温かく集う「たまり場」

スタッフの大島武子さんと常連さん

もったいないおばさんのたまり場には、基町高層アパートに住んでいる人びとや商店街の買い物客など、主に年配の方々が訪れます。

1日に訪れるお客さんは、10-15人と多くはないけれど、取材中もお客さんが途切れることはなく、いつも誰かがのんびりとお茶やご飯を楽しんでいました。「おはようさん」「いらっしゃいました~」と店に入ってくる常連さんたち。ふらっと立ち寄れば、誰か知り合いに会って、おしゃべりをしていきます。

「へえ、こんな懐かしい食堂がここにあったんですね」と、仕事の合間に通りすがった40代くらいの男性。テイクアウトでお昼ご飯を買っていく、商店街で働く若い女性。さまざまな人たちが、いい匂いと人のつながりに引き寄せられて、食堂を訪れます。

ホッとするような、おいしい家庭の味。

「食べて帰りんさい」。みんなを包み込む、井上さんの存在

井上さんと常連客の三味線の先生

食堂に入ってくるお客さんを迎えるのは、井上さんの温かい言葉。「いらっしゃい、何か温かいものでも食べる?」「食べて帰りんさい」「はい、どうぞ。愛情がてんこ盛りじゃけ!」。まるで、家に帰ってきたかのような、ほっとする空間です。

常連さんたちに、この食堂に来る理由をたずねると、口を揃えて「だって、井上さんがいいから」と。確かに、穏やかできさくな井上さんには、初対面でもなぜかスッと色々な話をしたくなるのです。

人と話をするのは、大好きですね。食堂では、家庭のような雰囲気を大切にして、誰でも来やすいようにしています。お店で産直野菜や卵を販売しているのも、ふと立ち寄るきっかけになればと思って。そうやって来てみれば、誰かとおしゃべりが生まれ、人とのつながりも生まれます。そういう場づくりを、ずっと目指してきました。

以前、よく来ていた90代のおばあちゃんが、急に顔を見せなくなったことがあったんです。連絡先は聞いていなかったので心配していたら、ある日お店に助けを求める電話があって。2週間くらい寝込んで、買い物も食事も作ることができないと。そこからは、毎日食事を作って届けました。今の時代、誰かに助けを求めることがなかなかできないこともある。そんな中でこの店を頼ってくれて、嬉しかったですね。

夜の部は、子どもたちが食べて勉強できる「みんなが龍馬塾」

もったいないおばさんのたまり場は、平日10時から14時までの営業ですが、週1回だけ夕方から夜にかけて開かれているのが「みんなが龍馬塾」。不登校や引きこもりなどの子どもたちが、ふらっと来ては、無料でご飯を食べたり、勉強を教えてもらったりできる場です。運営は別のスタッフが担っていますが、井上さんは夕飯を作って用意しておくそうです。

やっぱり、まずお腹が満たされることって、大切ですよね。先日も、夜の時間なのに一人でふらふらしている低学年の男の子がいて。ちょっと心配だから、ご飯を食べていったら?と招き入れました。

ここで、お腹も満たされて、人とのつながりもできる。「みんなが龍馬塾」の子どもたちで、福島の震災の時にボランティアでお好み焼きを作りに行ったこともありました。ここで勉強して、大学まで行った子もいます。大きくなって、自分の子どもを連れてきてくれたり、仕事帰りにふらっと寄ってくれたりする子もいるんですよ。

さまざまな人が支えあう「あったかい居場所」

もったいないおばさんのたまり場は、フードロスの問題に取り組みつつ、人びとがつながって支えあう「あったかい居場所」も生み出しています。

これは、大人も子どもも、誰しもが必要とするもの。さまざまな地域で、高齢化や孤独死、見えない貧困などの課題がある中で、こうした居場所やコミュニティを作っていくためには、どんなことが大切なのでしょうか。

こういう場所にしようと、気負ってやってきたわけじゃないんです。ただ、それぞれのお客さんのお話に耳を傾けたり、おしゃべりをしたり。雰囲気に合わせて、寄り添うような気持ちでやっています。

なかなか誰かに助けを求められないこともあるかもしれない。だからこそ、ずっと続いていて、そこにある場所って大切だなと思います。

井上さんは、フードロスや地域の支えあい、子どもの支援など、たくさんの大切な問題に取り組みながら、それを前面に押し出す雰囲気はありません。ただそこに、ふらっと行っても、いつでも受け入れてくれる場所を、ずっと続けている。家でも学校でも会社でもなく、地域や近所にこういう場所があることが、今の時代こそ求められているように感じます。

もったいないおばさんのたまり場
住所:広島県広島市中区基町19-2-462
TEL:082-221-3054
営業時間:月―金 10時―14時

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