青森と秋田の県境に位置する、十和田湖。
紅葉の名所としても有名で、10月中旬ごろには多くの観光客で賑わいます。そして、もう1つの魅力が、名産のヒメマス。
その養殖の歴史には、和井内貞行(わいない さだゆき)という1人の実業家が大きく関わっています。
十和田湖をヒメマスで変えた、秋田の実業家
今でこそ、「十和田湖ひめます」というブランドまで立ち上げ、ヒメマスの養殖場となっている十和田湖ですが、約100年前までは、そのようなことを考えられる場所ではありませんでした。
それを変えたのが、陸奥国鹿角郡毛馬内村(現・秋田県鹿角市)出身の実業家、和井内貞行です。
神に嫌われ、魚が住めない湖
和井内貞行が養殖事業を開始するまで、十和田湖は1匹も魚がいない湖でした。
十和田湖は、周囲約46km、最大深度326.8m、標高約400mに位置する、日本で唯一の二重カルデラ湖。火山帯の陥没が2度起きたために、湖の底の平らな部分が「外側の浅い部分」と「中央の深い部分」の2層になっている湖です。
(昔の人々は)十和田湖に祭られている青龍権現が、魚を忌み嫌うから、魚がいないと信じていました。
□出典:うまいもんドットコム
そのような信心深い人々からの反対を受けながらも、和井内貞行は自身の人生をかけて養殖事業に取り組み、『近代日本の養殖家三偉人』の1人として名を刻むことになります。
20年以上の歳月を費やした養殖事業
和井内貞行は、100年以上も前に地方創生を実現しようとした起業家とも言えます。
『十和田湖で養魚が成功すれば、皆が新鮮な魚を食べられるし、豊かにもなれる』
□出典:うまいもんドットコム
しかし、その道のりは非常に険しいものでした。鉱山勤務をしながら始めた鯉の養殖事業は失敗。営業不振のため、自身が働く十輪田鉱山が休山。それに伴う、地域内における人口流出と自身への転勤命令。
しかし、和井内貞行は挑戦を止めませんでした。
40歳の貞行は養殖漁業に専念するため藤田組を依願退社し、小坂から十和田湖へと帰郷。養魚に専念し、鯉を小坂や毛馬内の市場に出荷し始めたのです。
□出典:十和田湖国立公園協会
その後、和井内貞行はマスの養殖事業を進めていきます。
明治33年、43歳となった貞行は、長男貞時とともに事業の浮沈をかけ、青森水産試験場から買い入れたサクラマスの卵を孵化させると、5,000尾の稚魚を放流。
□出典:十和田湖国立公園協会
無論、それには資金が必要です。和井内貞行は、多額の借金を抱え、家財を質に入れ、家計が困窮しようとも、決して希望を捨てませんでした。
明治36年5月、ヒメマス(アイヌ語:カバチェッポ)の卵の孵化に成功し、稚魚30,000尾を放流しました。それから月日が経ち、ヒメマスが無事に遡上。
20年以上の歳月を費やし、和井内貞行は養殖を成功させたのです。
ブランド「十和田湖ひめます」
地域のために行動し続けた、和井内貞行。その志と事業は、十和田湖増殖漁業協同組合へと引き継がれています。
ヒメマスは、サケ科の淡水魚で、紅鮭の陸封型(紅鮭が湖で生活しているうちに海に下ることができなくなり、湖で一生を過ごすこととなった)の魚です。
□出典:十和田湖増殖漁業協同組合
故にヒメマスは紅鮭と同じ様に肉の部分が紅色で、塩焼き・刺身・フライ・燻製など様々な方法で料理して食べることができます。
青森県にある十和田食堂さんでは、「ヒメマスの漬け丼」が看板メニューとなっているそうです。
十和田湖へお越しの際は、美味しいヒメマスも是非お楽しみください。
店舗紹介
十和田食堂
□住所:青森県十和田市奥瀬字十和田湖畔休屋486 MAP
□電話:0176-75-2768
□時間:9:30~15:30
□定休:無休
※注意:12~3月は日曜・祝日のみ営業